AMED 新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業
抗毒素製剤に関する総合的な対策に資する研究[阿戸班]

実際の症例

ACTUAL CASES

無毒ともいわれた蛇ヤマカガシ、実際には死亡例も 抗毒素に高い効果

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患者を生きる
田村建二 2023年11月12日 12時01分

 ヤマカガシは、マムシとともに日本の九州以北でみられる代表的な毒蛇だ。カエルを主食としているため、水田やその周囲にいることが多い。

 日本蛇族学術研究所の堺淳・主任研究員によれば、ヤマカガシはかつて無毒とみられていた時期もあった。牙は口のやや奥にあって小さく、一瞬かまれた程度では毒が体にほとんど入らないためだという。ただ実際には、過去50年間あまりでヤマカガシ咬傷(こうしょう)とされた事例が45件あり、5人が死亡している。

 マムシ咬傷では痛みや腫れが主な症状なのに対し、ヤマカガシの場合は歯ぐきや古い傷からの出血、皮下出血などが起きやすい。

 毒素によって血液の凝固が進み、あちこちで血栓が起きる一方、出血が起きやすくなる。ただ、毒の中核成分について詳しいことはよく分かっていないとされている。

 かまれた場合は症状がなくてもできるだけ安静を保ち、早めに医療機関を受診することを堺さんはすすめる。かんだ蛇の写真を撮れれば、対応のうえで手助けになる。

 重症例の治療では、毒を無力化する抗毒素を体内に注入する「血清療法」とも呼ばれる手法の効果が高い。ただ、抗毒素は弱めた毒を複数回ウマに注射し、その血清をもとにつくられるため、アレルギー反応への注意が必要だ。

 ヤマカガシにかまれたAさんは回復後、自身の血液を研究用に提供した。血中には、ヤマカガシ毒を中和する「抗体」というたんぱく質が複数種類、含まれていることが推定されている。

 国立感染症研究所の研究者Bさんによれば、ヤマカガシ毒の中核成分が解明されれば、これに対する「モノクローナル抗体」というタイプの治療薬を、回復患者がもつ抗体を素材に作製することが可能だ。アレルギーなどの心配が少なく、研究者Bさんが加わる研究班が開発に取り組む。

 Aさんは血液を提供した回復患者の第一号となった。将来、同じようにヤマカガシにかまれて重症化した多くの人を救うことにつながる可能性がある。(田村建二)

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